
感動を言葉にすること。
そしてそれを伝えること。
こんなことも即座にできないほどだった。
私はただ「素晴らしい!」の言葉だけを小さくつぶやき、ため息をつき、頭を小さく左右に降り、手を高く上げて思い切りの拍手を繰り返す。
素晴らしいのは解っていたはず。
でもその有様は、これまでの想像を超えていたとしか言いようがない。
こんなはずではなかった。

岡山の街の外れの住宅地に佇む小さな教会。
現代風のモダンな小さな教会のホール。
白く高い空間に掲げられた木製の十字架の下に演奏場所は設定されていた。
相変わらず心が急いて会場の30分前に到着。
一番乗りではなかったが、会場のベストポジションを確保できた。
最前列。
キケの足元は右方向1メートル。
ネグロは3メートル左でこちらを向く形でピアノに向かう。
開場までの時間で、彼らがこのホールの響やピアノの音がたいそう気に入っているという情報も入ってきた。
何もかもが今の岡山で考えられる最高の状態が整っていた。
観客の期待は増すばかり。
立ち見を含めて立錐の余地はない。
「さあ、二人に入場していただきましょう!」という合図と共にもう終演ではないかと思わせるほどの盛大な歓声と拍手。
笑顔の二人は、周りを見回しながら微笑み、小さく何度も頷く。
そして支度をはじめると、今度は水を打ったように静まり返った。
誰もが一音たりとも聴き逃さないぞという気迫さえ感じる。
そしてキケの[danza sin fin]から[Seras verdad]の7弦ギターのソロにネグロのピアノがじゃれ付くように始まった。
どんな言葉に置き換えても表現は難しい。
1音1音が弾き出され、そして踊るように心の深いところに落ちてゆく。
7弦ギターの低音弦がベースのようにズンズンと杭を打ち込む。
ピアノは時に激しく時に優しく、水が上流から下流に流れてゆくように走り回る。
チャランゴの響きを聴いた時に天から福音が散華されてゆくのを目の当たりにしたようで、震えが来たほどだ。
とにかくいつまでも聴いていたい衝動にかられた。
終演後放心状態に陥る中、知らないうちにたくさんの方たちと握手を交わしていた。
目頭をハンカチで押さえている方も数人ではない。
とにかく10年来の岡山の美しい音楽を愛する人達の思いが結実した、こういうのを僥倖というのだろう。
この公演に関わってくださった全ての方に感謝したいと思います。
また通訳を買って出てくださったアルゼンチンや南米音楽に造詣の深い西村教授、彼らの言葉をそのまま聞いているようでした。

いつものように終演後のサイン会。
2人の作品はほとんど持っている私は、今回初めて見たキケのドイツ録音[MICRO TANGOS]を1枚購入。
それを肴に自宅から持参した、ネグロとキケが強力バックアップをした、silvia iriondo 1989年作品 [coplas para la luna]に2人のサインをいただきました。
(ネグロがこの中ジャケを見たとき「オォ!シルビアだっ!!」と言って、キケと顔を見合わせ笑顔でサインをしてくださいました。)

2012年5月13日 カルロス・アギーレ&キケ・シネシ ジャパン・ツアー
日本福音ルーテル岡山教会