インテリア・住宅・建築・生活・趣味・季節感に関わる四方山話. ちょっと素敵な物・事・景色・日常などを紹介したいと思います。
[20120629]
namuru003

6月28日朝のこと私は少し怒りながら歩き回っていた。
何を怒っていたのか、それはそうでもしないと1ミリも前に進んでゆかない自分に対してであっただろうか。

ほんのひと月半前、いつも欲しがるチーズさえいらないと暗闇に入ってゆきそうな奴を引っ張り出して、連れて行った病院での診断は、余命一ヶ月・・・・

とにかく食べられるものを何でも食べさせて、点滴を毎日2回100cc。
その日私は誰もいない部屋で一人で声を出して嗚咽した。
いや、奴はそばにいたか。

namuru002

10年前やってきた奴はたまたまその日私の膝に乗って半日を過ごしたことが気に入ってかいつも私の膝の上で過ごした。
寝るときは必ず妻の布団の近辺に決めていた。
ほかの人にはほとんど懐かず、隠れるくせに私と妻には心を最大限に開き、ちょっと帰りが遅れると玄関先で帰りを今か今かと待っていた。
夜外へ出たい時は寝ている私の手の上に受身をするように背中をぶつけ甘えてきた。

とにかくこの一ヶ月半その時の準備はしてきたつもりだった。
いつか昏睡状態に陥ることは知っていたので、その時は点滴をやめる決断をするつもりでもいた。
しかし数日前から阻喪をするようになってオムツをつけても意外とちゃんと私と対応していた。それでも眠っている時間は多くなったけれども。

そして6月27日朝になってとうとう箱の中から動けなくなってしまった。
時々立ち上がろうとするもかなわず、このまま昏睡状態に陥るかとも思ったが、やつは息が途絶えるまでのほんの2時間ほど前まで名前を呼ぶと必死にしっぽを振り続けた。

6月27日18時30分妻の胸の中で静かに息を引き取った奴。
私はとにかく「ありがとう、ありがとう」と声をかけ続けた。

近くの市役所の出張所で火葬場の使用料を払い、くすのき動物病院に未使用で残った点滴と医療廃棄物を持ってゆく。
窓口でいつもの怖くて可愛い看護婦さんに事情を話すとき、普通にしゃべれるつもりが早口になり、自分でも何を言っているのかわからなくなる始末。ちょっとした様子の説明質問にも答えようとすると落涙しそうで早々と退散した。

死出の床になったダンボール箱に私の古くなった毛布を敷き、バスタオルを掛けてやる。食べられなくなるまで好んで食べていたドライフードを入れてやり、食べられなくなっても好きだったマーガリンもトレーに乗せてやる。

ファーストカーのパンダ45を出し全体を拭き掃除をし後ろ座席をフラットにし、泣きじゃくる妻に別れを告げるように言うと、庭に出た妻は今咲いているオキザラスとスモークツリーそれにローズマリーを添えてやった。

そうだね、奴は庭に出るのが大好きだった。

小さくクラクションを鳴らし火葬場にゆく。パンダのダブルサンルーフはフルオープン。
この1っヶ月半の間その時のために考えていたことを実行しようと思う。

この10年間辛いことや苦しいことがたくさんあった、そんな時つまらない愚痴や嘆きを何も言わずに聞いてくれた奴に花向けをやりたかったのだ。
そのへんの安物じゃあなくて、とびっきりの赤いバラを。

県庁通りにある、バラの専門店。
存在は知っていても一度も足を踏み入れたことはない。
勇気を出して「そのままでいいですから、とびっきりの赤いバラを一本ください!」と店のオーナーに言う。
ポカンとした店のオーナーは何か訳ありだということは察知してくれたみたいで、でも誤解もされそうなので小さく「猫と一緒に燃やしてしまうので、新しいものでなくてもいいですよ」と呟くように言った。

黒と白の小さな骸に真っ赤なバラを飾って梅雨の晴れ間をしばし走る。
お山の上では事務的に台車の上に載せる。
「ここでお別れになります」係員の声。

返事もせずに小さく頭を下げてその場を離れるのが精一杯だった。

その代わり車を走らせてから大声で叫んだ「ありがとうナムル。本当に楽しかったよ。僕が向こうへ逝く時は必ず迎えに来いよ!ありがとう!!」小さくしのび足の墨をちらしたような黒い体躯がこっちに歩いてくる姿が頭の中に通り過ぎた。



管理者にだけ表示を許可する
Top
http://yaha119.blog116.fc2.com/tb.php/1323-c9d7d12c
copyright © 2005 山本治彦 all rights reserved.

Template By innerlife02

プロフィール

山本治彦

Author:山本治彦
山本治彦空間制作工場
1級建築士事務所
岡山市古都宿239-6-101
TEL 086-278-5101
FAX 086-278-5102
携帯 090-2865-0970
MAIL yaha119@yahoo.co.jp

カテゴリー

興味を持たれたら

是非、御連絡下さい。相談は無料です。いろんな話を聞かせてください。それも私たちの糧になります。どうぞお気軽に。

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

月別アーカイブ

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる